はじめに
ザイマックスグループでは、オフィスビルや商業施設などの不動産に対して、管理・運営・メンテナンスまで幅広いサービスを提供しています。
これらの業務を支えるため、社内ではさまざまな業務システムが利用されています。日々の運用の中、システム部門には操作方法や仕様確認など、システムに関する様々な問い合わせが寄せられます。
こうした問い合わせに回答するには、過去の対応履歴、マニュアル、仕様書などを確認する必要があります。一方で、対象システムや業務ルールが複雑になるほど、必要な情報を探す時間は長くなり、対応する担当者の負担も大きくなります。
そこで今回は、生成AIと社内文書の検索技術を活用し、システム部門の問い合わせ対応を支援する仕組みを構築しました。本記事では、その概要と実装上の工夫を紹介します。
開発した仕組み
開発したのは、社内からシステム部門へ届く問い合わせメールを起点に、関連する過去の対応履歴や公式ドキュメントを検索し、回答ドラフトを作成する仕組みです。
生成AIが自動で返信するのではなく、担当者が内容と根拠を確認したうえで返信する設計にしています。
技術構成
主な利用技術は以下の通りです。
・Google Apps Script:Gmailの受信検知、過去問い合わせメールの取得、API連携、Google Chat通知
・Gemini:問い合わせ内容の要約、検索クエリ生成、回答ドラフト作成、過去メールやドキュメントの要約
・gemini-embedding-001:問い合わせ文、要約文、ナレッジのベクトル化
・Google スプレッドシート:過去問い合わせ履歴、要約文、意味ベクトル、処理結果の管理
・FAISS:マニュアルや仕様書などの公式ドキュメント検索
・Cloud Run:FAISS検索API、ナレッジ構築処理の実行基盤
実装上の工夫
1. 過去メールをナレッジとして蓄積する
過去の問い合わせ履歴を活用するため、GASを使ってGmail上の問い合わせメールや返信内容を取得し、スプレッドシートに整理しています。
メール本文をそのまま保存するだけでなく、Geminiで内容を要約し、問い合わせの要点を把握しやすい形に整えています。さらに、本文や要約文を意味ベクトルに変換する(文章の意味を数値化する)ことで、新しい問い合わせが届いた際に、過去の類似問い合わせを検索できるようにしました。
2. 過去履歴と公式ドキュメントを組み合わせる
過去の問い合わせ履歴には、実際の回答例や対応の流れが蓄積されています。回答方針や表現を検討するうえで有用ですが、初めて寄せられる問い合わせには、参考にできる履歴がありません。
そこで、過去履歴に加えて、マニュアルや仕様書などの公式ドキュメントも検索対象にしています。
過去履歴からは実務上の対応文脈を確認し、公式ドキュメントからは回答の根拠となる情報を確認します。これにより、過去の対応を参考にしながら、公式情報に基づいた回答を作成できるようにしています。
3. ドキュメントをQA形式にも構造化する
マニュアルや仕様書には、表、図、注釈、項目間の関係など、レイアウトに意味を持つ情報が多く含まれます。単純にテキストだけを抽出すると、これらの関係性が失われ、検索時に必要な情報へ正しくたどり着けない場合があります。
そこで、生成AIを用いてドキュメントの内容を読み取り、画面概要、項目仕様、入力制限、業務ルール、補足情報などの意味のまとまりごとに構造化しています。各まとまりには、内容本文、関連キーワード、必要に応じたFAQを付与し、FAQだけでなく、トピック名、本文、項目名、キーワードなども含めて検索対象にしています。
これにより、ユーザーが自然文で質問した場合でも、該当する仕様や業務ルールをより正確に検索できるようにしています。
4. ベクトル検索と文字列一致を組み合わせる
問い合わせ文は、人によって表現が異なります。そのため、Embeddingを使ったベクトル検索により、意味が近い情報を検索できるようにしています。
一方で、機能名などの固有名詞は、意味の近さだけでなく、文字列として一致しているかどうかも重要です。そこで、過去履歴の検索では、ベクトル類似度に加えて、件名や要約文の一致度も評価しています。
総合スコア =
0.75 × ベクトル類似度+ 0.15 × 件名の一致度+ 0.10 × 要約文の一致度
5. 回答根拠を確認できる通知にする
回答ドラフトは、システム部門の担当者へGoogle Chatで通知します。
通知では、回答案に加え、過去対応や参照した公式ドキュメントのURLも表示します。
まず親メッセージには、問い合わせ内容の概要を投稿します。そのうえで、スレッド内に以下の情報をまとめて表示します。
- 類似した過去の問い合わせ対応
- 参考にしたマニュアルや仕様書
- AIが作成した回答ドラフト
- 根拠確認用の参照URL
参照した公式ドキュメントは下記のようなイメージでチャットで通知されます。
担当者が、生成AIの回答案と根拠をあわせて確認できる点を重視しました。
期待される効果
この仕組みにより、システム部門の担当者が過去メールやマニュアルを個別に探す時間を減らせると考えています。
ほかに期待される効果は以下の通りです。
・回答品質のばらつき低減
・新任担当者の立ち上がり支援
・過去対応履歴の活用促進
・公式ドキュメントに基づく回答の徹底
今後の展望とまとめ
今回、生成AIと検索技術を活用し、システム部門への問い合わせ対応を支援する仕組みを開発しました。
この仕組みでは、生成AIが回答を自動で完結させるのではなく、調査と下書きを支援します。担当者が根拠を確認したうえで判断することで、問い合わせ対応の効率化と品質向上の両立を目指しています。
現在は、実際の業務での活用に向けて、検索精度や回答内容を確認しながら改善を進めています。今後は、マニュアルや仕様書の更新に合わせて検索用データを再構築する仕組みも整備し、より多くの業務で活用できる形へ発展させていきます。
